伝送線路のインピーダンスについて
任意負荷が接続されたRLCG伝送線路の入力インピーダンス
分布定数回路の理論式から、任意の負荷が接続された場合のインピーダンスの算出方法をこの記事で示したい。特性インピーダンスがで長さの伝送線路の先に、インピーダンスの負荷がある場合を考える。この系のの場所から見たインピーダンスを求めたい。
Fig.1 インピーダンスで終端された分布定数回路
この系の電圧、電流を決定することは、領域で定義された常微分方程式を解くことである。また、RLCG分布定数回路の一般解は様々な教科書にて既に求められており、本ブログでも導出した。
ykondo813.hatenadiary.jp
RLCG分布定数回路の一般解を以下に示す。V、Iの一般解は
である。ここでの導出は以前の記事を参照のこと。
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未知変数はと(もしくはと)の2つであるため、、 に適切な終端条件(境界条件)を決めてやれば場の電圧、電流は全て決まる。での終端条件は、インピーダンスの負荷であるため、電圧と電流の間には以下の関係式が成り立つ。
一般解に対してにを代入すると以下となる。
さらに、と、とは特性インピーダンスで変換可能なことを考慮すると
と式変形できる。これにより、入射電圧と反射電圧の関係が求まり、系の未知変数は1つだけになる。(つまり、かのどちらか一つが決めれば、全ての変数が決まる。)
今回の目的は、長さの伝送線路に負荷が接続された時のインピーダンスを求めることである。すなわちにおける電圧、電流の比を求めれば良い。、は以下となる。
との関係式は、先ほどのでの終端条件より
なので、代入して式変形をしていくと
となる。ここで、との関係式およびとの関係式を用いた。さらに式変形をしていくと
となり、長さの分布定数回路にインピーダンスが接続されたときのインピーダンスが計算できた。
RLCG伝送線路のZパラメータ算出
長さの伝送線路は2ポートの回路(4端子回路、2端子対回路)として表記できる。上記とほぼ同様の手順にてZパラメータ等の回路パラメータを算出できるため、ここで示したい。
Fig.2 長さlの分布定数回路(2端子対回路)
Zパラメータの定義は、各端子対に一定電流を流した時に、各端子対に発生する電圧で定義できる。行列形式で記述すると以下となる。
伝送線路は対称なため、とを求めれば良い。
は、ポート2をオープンにしたときのポート1の電圧、電流比である。よって先ほど求めた入力インピーダンスから、を無限大の極限を置くことにより計算できる。
また、は、ポート2をオープンにしたときにポート1に流れる電流とポート2の電圧の比である。すなわち、伝送線路の座標で考えたときに、の場所での電圧(ポート2の電圧)と、の場所での電流(ポート1の電流)の比を計算すれば良い。
ここで、負荷が無限大とすることにより、との比が求まる。
また、負荷が無限大であることによりとなるため、との関係も求まる。
ここから式を整理していくと、
となる。以上をまとめると、伝送線路のZパラメータは以下のように表現される。
無損失の伝送線路の場合、は となるので
となる。
Zパラメータが求まれば、Yパラメータ、Sパラメータ、F行列(ABCDパラメータ)等の2端子対回路のパラメータは変換をすることにより計算可能である。
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伝送線路方程式の一般解の数式が間違っていましたので修正しました。2018/10/29
数式をTex化しました。2019/01/06
分布定数回路の伝搬係数の求め方
分布定数回路において、伝搬係数が具体的にどのような値を取りうるのか検討する。分布定数回路では電圧も電流も2階の微分方程式の解として表現される。電圧について記述すると、
となる。この一般解は
を満足するλを係数とした指数関数である。R、L、C、G、ωは全て正の実数なので、λの2乗の虚部は必ず正である。よってλの2乗は、複素平面上の第1、第2象限に存在することになる(複素平面上の偏角が0〜180°になる)。この場合、λの偏角は0〜90°と180〜270°、すなわち第1象限および第3象限となる。すなわち、λを実数α、βで
と表した場合、αとβは同符号となる。λの2乗の関係式から、
より、以下の2つの関係式が得られる。
これより、α、βを決めることが可能である。βを消去してαだけの式に変形する。
αの2乗に関する2次方程式なので、αの2乗は以下のようになる。
αは実数なので、αの2乗は正でなければならない。よって
となる。平方根の中を整理すると
となる。以上よりαは
となる。αが求まればβも求まり、
となる。ここでαとβは同符号でなければならないから、α>0、β>0としてλを定義し、一般解を
とおけば良い。
伝送線路の単位長さ当たりのL、Cの算出
同軸線やマイクロストリップラインなど伝送線路にて、単位長さ当たりのインダクタンスL、キャパシタンスCがどの程度の値になるのか計算する。
無損失TEM波伝送線路の特性インピーダンスZ0と単位長さ当たりのL、Cの関係式は次式となる。(Maxwell方程式と伝送線路その2を参照)
また、無損失TEM波伝送線路において、位相速度は物理空間上の光速であり、L、Cと媒質の物性値μ、εの関係は以下となる。
この2つの式から、特性インピーダンスZ0と媒質のμ、εが分かれば、単位長さ当たりのL、Cを算出することができる。
計測等でよく使用される、50Ω同軸ケーブルを例に考える。特性インピーダンスZ0は50Ω、電磁波の通る絶縁体媒質の比透磁率は非磁性体なので1である。絶縁体媒質の比誘電率は、まず理想的な中空材として1として計算してみよう。
ここでcは真空中の光速を表し、ここでは3.0×10^8m/sとした。以上より、単位長さ当たりの容量Cは66.7 pF/m、単位長さ当たりのインダクタンスLは167 nH/mとなる。
もう少し現実に近い、一般的な50Ω系同軸ケーブルについて考える。一般的には絶縁体としてポリエチレンが使用される。ポリエチレンの比誘電率εrはWebで検索した限りだとおおよそ2.2 〜 2.4程度であるので、ここではεr = 2.3とおいてC、Lを計算すると、
となり、LもCも真空媒質で計算した50Ω伝送線路のLCに対しεrの平方根を乗じた値となる。
準TEM波伝送線路
準TEM波の伝送線路(マイクロストリップライン等)の場合、Lには媒質が一様な場合(通常は真空)のμ、εを用いて計算したL0、C0と、一部の空間の媒質の比誘電率εrを考慮して計算したCが用いられて、特性インピーダンスZ0が計算される。
また準TEM波では、CとC0の関係を実効誘電率εeffと定義している。
伝送線路理論において、電圧・電流を波として考慮した位相速度vは、実効誘電率εeffと
という関係になる。特性インピーダンスZ0と実効誘電率εeffが分かれば、L、Cは計算可能であり、Cは
と表現できる。これはTEM波伝送線路と同じ式となる。Lについても同様である。結局、実効誘電率εeffという形で準TEM波の特性をTEM波伝送線路と同じように表現しているのである。なお、マイクロストリップラインの場合、Web上の特性計算サイト(Microstrip Line Calculator)等を利用すれば、比較的用意に実効誘電率εeffを計算することができる。
まとめ
伝送線路の単位長さ当たりのL、Cは、結局のところ、媒質の誘電率(もしくは実効誘電率)と特性インピーダンスが分かれば、計算可能である。伝送線路で用いられる媒質の誘電率は最小で1、大きくてもせいぜい10(セラミック基板)なので、ここから特性インピーダンスが50Ωの伝送線路のL、Cの量が大体分かる。Cに関してはおおよそ67 pF/mの1.5倍〜3倍程度、Lに関しては167 nH/m の1.5倍〜3倍程度だと考えていれば良い。
なお、寄生Lに関して1 nH / mmという概算値が一般に言われているが、特性インピーダンスが50Ωのマイクロストリップラインで考えると0.2 nH/m程度となることが興味深い。マイクロストリップラインの場合、ベタGNDが信号線の下にしっかりとれているからであると考えられる。