微小電流源からの放射電磁界の導出 その2 E、Hの算出
前回、空間中に電流密度ベクトルが分布する場合にベクトルポテンシャルがどのようになるかを求めた。式で表すと、
であり、電流密度分布J(r)が与えられればその体積分をすることにより、任意の座標における磁気ベクトルポテンシャルAを算出できるというものであった。
今回は、いよいよ微小電流源による電磁界E、Hを算出する。
図1 微小電流源
上の図1のように座標系原点に長さs、電流値I、電流の向きがz方向、角周波数ωで交流振動する微小電流源を考える。電流の向きがz方向のみなので、Aのx、y方向成分はゼロである。電流源の長さが十分に小さい場合、電流密度ベクトルはδ関数で表現できるため、積分を取ると
となる。電界E、磁界Hは、電磁ポテンシャルA、φから
と計算できる。ベクトルポテンシャルAはHelmholtz方程式のGreen関数から求まったが、スカラーポテンシャルφはどうすれば良いだろうか?φは Helmholtzの導出で課したローレンツゲージ条件から求めれば良い。
まず磁界Hから算出する。球座標系でAを表すと以下のとおりである。
各座標軸に対応する成分で書き直すと以下となる。
球座標系でのrotの公式を用いて算出する。例えば、このページに公式が記載されている。公式を真面目に導出しようとするとやや面倒であるが、x,y,zとr,θ,φの関係式から偏微分をゴリゴリ計算していけば求めることができる。公式に当てはめて、rotAを成分ごとに書き下したのが以下の式である。
H=rotA/μなので、Hは以下となる。
ここで、1/rを1/(k0r)にまとめたいため、k0を外に出した。
次に電界Eを算出する。ローレンツゲージ条件よりスカラーポテンシャルφを消去してAのみでEを表示すると以下となる。
計算がやや面倒なのは、第2項の発散divと勾配gradを取る部分である。Aの発散は、デカルト座標系で簡単に求まる。
divAの勾配は、先ほどの球座標系の公式を用いて計算していけば良い。
各方向成分を算出すると以下となる。
以上より、Eの各方向成分が以下のように算出できる。
これで目的としていた微小電流源からの放射の式
を導出できた。
rの3乗に反比例する項が静電場、2乗に反比例する項が誘導場、1乗に反比例する場が放射場となり、遠方では放射場のみが支配的になる云々という説明が、大体のアンテナ系、マイクロ波系の教科書に記載されているが、また別の機会にコメントしたい。