ykondo813’s diary(旧パワエレ・EMC日記)

高周波、電磁気学、電気回路について勉強したことをまとめたものです

分布定数回路理論の基礎

 先日の記事で、TEM波から波動としての電圧と電流を定義し、入射電圧と入射電流の比が特性インピーダンスとなることを示した。これは分布定数回路理論によって得られる理論と一致するのだが、これを確認するため分布定数回路理論の基本的な部分を導出する。
 なお、分布定数回路の概念はこちらのページ(分布定数回路とは何か)が分かりやすい。また、分布定数回路に現れる式の一覧はWikipediaの記事がまとまっているので参照のこと。

分布定数回路理論
 電線は電流の行きと帰りが必要なので、最低でも2本の線が必要となる。2本の電線にて、高周波の効果を考慮したものが分布定数回路である。電線はそれ自体がインダクタンス成分を持ち、また電線間には容量成分を持つ。単位長さ当たりのLCから長さ方向の微分方程式を作ることにより、電圧と電流を長さ方向の波動として取り扱うのが分布定数回路である。
        
            図:分布定数回路概念図
 分布定数回路の一般解を導出する。単位長さ当たりのインダクタンスをL、抵抗をR、線間の静電容量をC、線間のコンダクタンスをGとする。また長さ方向を正として座標xを置く。単位長さ当たりの分布直列インピーダンスZ_dおよび分布並列アドミタンスY_dは以下となる。
  Z_d = j\omega L+R
  Y_d = j\omega C + G
 ある座標値zにおける線路間電圧をV、線路電流をIとする。微小区間dzだけ進んだ場所での電圧をV+dV、電流をI+dIとすると
  dV = -(Z_d dz)I
  dI = -(Y_d dz)V
となる。これより以下の微分方程式が得られる。
   \displaystyle \frac{dV}{dz} = -Z_d I

   \displaystyle \frac{dI}{dz} = -Y_d V
上の2式から電流だけの式、電圧だけの式となるよう変数を除去すると、以下の常微分方程式が得られる。
   \displaystyle \frac{d^2V}{dz^2} = Z_d Y_d V
   \displaystyle \frac{d^2I}{dz^2} = Z_d Y_d I
ここで \displaystyle {\lambda} = \sqrt{Z_d Y_d}とすれば、電圧と電流の一般解が求まる。
   \displaystyle V=V_{i}e^{-\lambda z}+V_{r}e^{\lambda z}
   \displaystyle I=I_{i}e^{-\lambda z}+I_{r}e^{\lambda z}
   \displaystyle \lambda = \sqrt{Z_d Y_d} = \sqrt{(j{\omega}L+R) (j{\omega}C+G)} = \alpha + j\beta
ここでλは伝搬定数、λの実部αは減衰定数、虚部のβは位相定数と一般に呼ばれる。式の形から、電圧および電流の第1項は+z方向に進む波であり、第2項は-z方向に進む波となる。これより第1項を入射波、第2項を反射波といい、V_iを入射電圧、I_iを入射電流、V_rを反射電圧、I_rを反射電流という。電圧の微分式に電圧、電流の一般解を代入する。
   \displaystyle \frac{dV}{dz}=-Z_{d}I
   \displaystyle \Rightarrow \frac{d}{dz}(V_{i}e^{-\lambda z} + V_{r}e^{\lambda z}) = -Z_d(I_{i}e^{-\lambda z}+I_{r}e^{\lambda z})
   \displaystyle \Rightarrow e^{-\lambda z}(-\lambda V_i + Z_{d}I_{i}) + e^{\lambda z}(\lambda V_r + Z_{d}I_{r}) = 0
より
   \displaystyle V_i=\frac{Z_d}{\lambda} I_i =\sqrt{\frac{Z_d}{Y_d}} I_i
ここで特性インピーダンスZ_0
   \displaystyle Z_0=\sqrt{\frac{Z_d}{Y_d}}=\sqrt{\frac{j{\omega}L+R}{j{\omega}C+G}}
と置くと
   V_i=Z_{0}I_i
   V_r=-Z_{0}I_r
となる。これより、特性インピーダンスZ_0は入射電圧V_iと入射電流I_iの比を表す。反射電圧V_rと反射電流I_rの比は、特性インピーダンスの負の符号となる。損失がない場合は、R=0G=0となり、伝搬係数\lambda
   \displaystyle \lambda = \sqrt{LC}
となり特性インピーダンスZ_0
   \displaystyle \lambda = \sqrt{\frac{L}{C}}
となる。この\lambdaZ_0で記述された電圧と電流の式はTEM波2導体系で定義した電圧、電流と完全に一致する。

※2021/08/12 2階の常微分方程式の符号に間違いがあったので修正した。