分布定数回路理論の基礎
先日の記事で、TEM波から波動としての電圧と電流を定義し、入射電圧と入射電流の比が特性インピーダンスとなることを示した。これは分布定数回路理論によって得られる理論と一致するのだが、これを確認するため分布定数回路理論の基本的な部分を導出する。
なお、分布定数回路の概念はこちらのページ(分布定数回路とは何か)が分かりやすい。また、分布定数回路に現れる式の一覧はWikipediaの記事がまとまっているので参照のこと。
分布定数回路理論
電線は電流の行きと帰りが必要なので、最低でも2本の線が必要となる。2本の電線にて、高周波の効果を考慮したものが分布定数回路である。電線はそれ自体がインダクタンス成分を持ち、また電線間には容量成分を持つ。単位長さ当たりの、から長さ方向の微分方程式を作ることにより、電圧と電流を長さ方向の波動として取り扱うのが分布定数回路である。
図:分布定数回路概念図
分布定数回路の一般解を導出する。単位長さ当たりのインダクタンスを、抵抗を、線間の静電容量を、線間のコンダクタンスをとする。また長さ方向を正として座標を置く。単位長さ当たりの分布直列インピーダンスおよび分布並列アドミタンスは以下となる。
ある座標値における線路間電圧を、線路電流をとする。微小区間だけ進んだ場所での電圧を、電流をとすると
となる。これより以下の微分方程式が得られる。
上の2式から電流だけの式、電圧だけの式となるよう変数を除去すると、以下の常微分方程式が得られる。
ここでとすれば、電圧と電流の一般解が求まる。
ここでλは伝搬定数、λの実部αは減衰定数、虚部のβは位相定数と一般に呼ばれる。式の形から、電圧および電流の第1項は+z方向に進む波であり、第2項は-z方向に進む波となる。これより第1項を入射波、第2項を反射波といい、を入射電圧、を入射電流、を反射電圧、を反射電流という。電圧の微分式に電圧、電流の一般解を代入する。
より
ここで特性インピーダンスを
と置くと
となる。これより、特性インピーダンスは入射電圧と入射電流の比を表す。反射電圧と反射電流の比は、特性インピーダンスの負の符号となる。損失がない場合は、、となり、伝搬係数は
となり特性インピーダンスは
となる。この、で記述された電圧と電流の式はTEM波2導体系で定義した電圧、電流と完全に一致する。
※2021/08/12 2階の常微分方程式の符号に間違いがあったので修正した。