ykondo813’s diary(旧パワエレ・EMC日記)

高周波、電磁気学、電気回路について勉強したことをまとめたものです

伝送線路のインピーダンスについて

任意負荷が接続されたRLCG伝送線路の入力インピーダンス

 分布定数回路の理論式から、任意の負荷が接続された場合のインピーダンスの算出方法をこの記事で示したい。特性インピーダンスZ_0で長さlの伝送線路の先に、インピーダンスZ_Lの負荷がある場合を考える。この系のx=0の場所から見たインピーダンスを求めたい。
   
    Fig.1 インピーダンスZ_Lで終端された分布定数回路

 この系の電圧、電流を決定することは、0{\leqq}x{\leqq}l領域で定義された常微分方程式を解くことである。また、RLCG分布定数回路の一般解は様々な教科書にて既に求められており、本ブログでも導出した。
ykondo813.hatenadiary.jp

 RLCG分布定数回路の一般解を以下に示す。V、Iの一般解は
    V(x)=V_{i}e^{{-\lambda}x}+V_{r}e^{{\lambda}x}
    I(x)=I_{i}e^{{-\lambda}x}+I_{r}e^{{\lambda}x}
である。ここで\lambdaの導出は以前の記事を参照のこと。
ykondo813.hatenadiary.jp

 未知変数はV_iV_r(もしくはI_iI_r)の2つであるため、x=0x=lに適切な終端条件(境界条件)を決めてやれば場の電圧、電流は全て決まる。x=lでの終端条件は、インピーダンスZ_Lの負荷であるため、電圧Vと電流Iの間には以下の関係式が成り立つ。
    \displaystyle V(l)=Z_L I(l)
一般解に対してxlを代入すると以下となる。

    V(l)=V_{i}e^{{-\lambda}l}+V_{r}e^{{\lambda}l}
    I(l)=I_{i}e^{{-\lambda}l}+I_{r}e^{{\lambda}l}

さらに、V_iI_iV_rI_r特性インピーダンスZ_0で変換可能なことを考慮すると

    \displaystyle V_{i}e^{-\lambda l}+V_{r}e^{\lambda l}=Z_L(I_{i}e^{-\lambda l} + I_{r}e^{\lambda l})

    \displaystyle \leftrightarrow V_{i}e^{-\lambda l}+V_{r}e^{\lambda l}=\frac{Z_L}{Z_0}(V_{i}e^{-\lambda l} - V_{r}e^{\lambda l})

    \displaystyle \leftrightarrow 
               \left(
                 1-\frac{Z_L}{Z_0}
               \right)
               V_{i}e^{-\lambda l}=
               \left(
                 1+\frac{Z_L}{Z_0}
               \right)
               V_{r}e^{\lambda l}

    \displaystyle \leftrightarrow V_r=\frac{Z_L-Z_0}{Z_L+Z_0}e^{-2\lambda l}V_i

と式変形できる。これにより、入射電圧V_iと反射電圧V_rの関係が求まり、系の未知変数は1つだけになる。(つまり、V_rV_iのどちらか一つが決めれば、全ての変数が決まる。)
今回の目的は、長さlの伝送線路に負荷Z_Lが接続された時のインピーダンスを求めることである。すなわちx=0における電圧V(0)、電流I(0)の比を求めれば良い。V(0)I(0)は以下となる。

    \displaystyle V(0)=V_i+V_r
    \displaystyle I(0)=I_i+I_r

V_iV_rの関係式は、先ほどのZ_Lでの終端条件より
    \displaystyle V_r=\frac{Z_L-Z_0}{Z_L+Z_0}e^{-2\lambda l}V_i
なので、代入して式変形をしていくと
    \displaystyle V(0)=V_{i}
             \left(
               1+\frac{Z_L-Z_0}{Z_L+Z_0}e^{-2\lambda l}
             \right)
    \displaystyle I(0)=I_{i}
             \left(
               1-\frac{Z_L-Z_0}{Z_L+Z_0}e^{-2\lambda l}
             \right)
となる。ここで、V_iI_iの関係式I_i=V_{i}/Z_0およびV_rI_rの関係式I_r=-V_{r}/Z_0を用いた。さらに式変形をしていくと

    \displaystyle 
                  Z=\frac{V(0)}{I(0)}=Z_0\frac{Z_L+Z_0+(Z_L-Z_0)e^{-2\lambda l}} {Z_L+Z_0-(Z_L-Z_0)e^{-2\lambda l}} \\\
                  \displaystyle 
                  = Z_0\frac{
                                     Z_L (e^{\lambda l}+e^{-\lambda l}) + Z_0 (e^{\lambda l}-e^{-\lambda l})
                                   }
                                   {
                                     Z_L (e^{\lambda l}-e^{-\lambda l}) + Z_0 (e^{\lambda l}+e^{-\lambda l})
                                   } \\\
                  \displaystyle 
                  = Z_0 \frac{
                                      Z_L+Z_0 \tanh(\lambda l)
                                    }
                                    {
                                      Z_0+Z_L \tanh(\lambda l)
                                    }

となり、長さlの分布定数回路にインピーダンスZ_Lが接続されたときのインピーダンスZが計算できた。


RLCG伝送線路のZパラメータ算出

 長さlの伝送線路は2ポートの回路(4端子回路、2端子対回路)として表記できる。上記とほぼ同様の手順にてZパラメータ等の回路パラメータを算出できるため、ここで示したい。
   
   Fig.2 長さlの分布定数回路(2端子対回路)
 Zパラメータの定義は、各端子対に一定電流を流した時に、各端子対に発生する電圧で定義できる。行列形式で記述すると以下となる。
    \displaystyle {
             \begin{bmatrix}
                 V_1 \\\
                 V_2 
             \end{bmatrix}
             = 
             \begin{bmatrix}
                 Z_{11} & Z_{12} \\\
                 Z_{21} & Z_{22} 
             \end{bmatrix}
             \begin{bmatrix}
                 I_{1}  \\\
                 I_{2}  
             \end{bmatrix}
           }
伝送線路は対称なため、Z_{11}Z_{21}を求めれば良い。
Z_{11}は、ポート2をオープンにしたときのポート1の電圧、電流比である。よって先ほど求めた入力インピーダンスから、Z_Lを無限大の極限を置くことにより計算できる。
    \displaystyle{
                                       Z_{11} = Z_0 \frac{1}{\tanh(\lambda l)}
                                                  =Z_0 \coth(\lambda l)
                                        }
 また、Z_{21}は、ポート2をオープンにしたときにポート1に流れる電流とポート2の電圧の比である。すなわち、伝送線路の座標で考えたときに、x=lの場所での電圧(ポート2の電圧)と、x=0の場所での電流(ポート1の電流)の比を計算すれば良い。
    
           \displaystyle {
               Z_{21} = \frac{V(l)}{I(0)}
                          = \frac{ V_{i} e^{-\lambda l} + V_{r} e^{\lambda l} }
                             {I_i + I_r}
           }
ここで、負荷Z_Lが無限大とすることにより、V_iV_rの比が求まる。
    \displaystyle {
              V_r = e^{-2\lambda l} V_i
           }
また、負荷Z_Lが無限大であることによりI(l) =0となるため、I_iI_rの関係も求まる。
    \displaystyle {
              I(l) = I_i e^{-\lambda l} + I_r e^{\lambda l} = 0 \\\
              \leftrightarrow I_r = - I_i e^{-2\lambda l}
           }
ここから式を整理していくと、
    \displaystyle {
              Z_{21} = \frac{ 2V_i e^{-\lambda l}}
                             {I_i(1-e^{-2\lambda l} ) }
                         = \frac{ V_i } {I_i} \frac{2}{e^{-\lambda l}+e^{\lambda l}}  \\\
                         = \frac{Z_0} {\sinh(\lambda l)}
           }
となる。以上をまとめると、伝送線路のZパラメータは以下のように表現される。
    \displaystyle {
             \begin{bmatrix}
                 Z
             \end{bmatrix}
             = Z_0
             \begin{bmatrix}
                 \coth(\lambda l) & 1/ \sinh(\lambda l) \\\
                 1/ \sinh(\lambda l) & \coth(\lambda l)
             \end{bmatrix}
           }
無損失の伝送線路の場合、\lambda j\beta (\beta = \sqrt{LC})となるので
    \displaystyle {
             \begin{bmatrix}
                 Z
             \end{bmatrix}
             = jZ_0
             \begin{bmatrix}
                 \cot(\beta l) & 1/ \sin(\beta l) \\\
                 1/ \sin(\beta l) & \cot(\beta l)
             \end{bmatrix}
           }
となる。
 Zパラメータが求まれば、Yパラメータ、Sパラメータ、F行列(ABCDパラメータ)等の2端子対回路のパラメータは変換をすることにより計算可能である。

___
伝送線路方程式の一般解の数式が間違っていましたので修正しました。2018/10/29
数式をTex化しました。2019/01/06