微小電流源からの放射電磁界の導出 その1 ヘルムホルツ方程式の導出
座標系原点に長さs、電流値I、電流の向きがz方向、角周波数ωで交流振動する微小電流源からの電磁界は、よく文献等で以下のように書かれている。
図1 微小電流源
ただし、Eは電界、Hは磁界を表し極座標系で表示している。また、式中のZ0、k0は
であり、それぞれ空間の波動インピーダンス及び波数(もしくは伝搬係数)を意味する。μとεはそれぞれ空間の透磁率と誘電率を意味する。この微小電流源からの電磁界解析式より平面波やアンテナの理論が導出されているが、これをMaxwellの方程式から導いてみたい。基本的な導出手法は、電磁界を電磁ポテンシャルA、φで記述して解を求め、そこから電界E、磁界Hを算出することである。本日はベクトルポテンシャルをどのように算出するかを示す。
Maxwellの方程式と、EとD、HとBの関係を表す構成方程式は以下のとおりである。ここで、μとεは一定(線形)であることを仮定した。
E:電界ベクトル B:磁束密度ベクトル H:磁界ベクトル
J:電流密度ベクトル D:電束密度ベクトル ρ:電荷密度
Bの発散がゼロなので、ベクトルポテンシャルAを導入する。
アンテナ系の教科書では、E-H対応で記述されているためかH = rot Aと表記する場合もあるので、注意が必要である。B = rot AをFaradayの法則に代入すると
となる。Aには任意のスカラー関数の勾配分だけ自由度があるため、スカラーポテンシャルφを導入して電界Eを表現すると、
と表現できる。次にAmpererの法則に、E、Bをポテンシャルで表記して代入する。
同様に、Gaussの定理をポテンシャルで表現すると
となる。ここで、ポテンシャルAとφの関係として
という条件を課す。この条件は一般にローレンツゲージと呼ばれている。ローレンツゲージの元では、Ampereの法則およびGaussの法則から導き出された式は、div Aの項とgradφの項が消去されて以下の波動方程式が導き出される。
都合よく波動方程式になるように条件を課しているように見えるが、私の解釈ではまさしくその通りで、都合よく条件を設定しているものだと考えている。そもそも、電磁ポテンシャルAはスカラー分布量の勾配分だけ任意性がAにあるためにスカラーポテンシャルφが導入されており、φには自由度がある状態だと考えている。A、φの式を分離してきれいな波動方程式にするためにローレンツゲージを課していると考えている。
波動方程式の速度は
となり、光速となる。
A、φを複素数としフェーザ表示した場合、時間微分はjωと表示できるため、ポテンシャルに関する波動方程式は
となり、Helmholtz方程式となる。ベクトルポテンシャルに関してはベクトルとして表示しているが、デカルト座標系の各方向x,y,z方向に対して、スカラー量のHelmholtz方程式になっていると私は解釈している。ここで波数を
とすると、
となる。Helmholtz方程式の右辺はちょうどポテンシャルの源泉(ソース)を意味する。ソースとして単位体積当たりの電流密度分布が場に分布して存在した場合、ベクトルポテンシャルAは以下となる。
ここで、Helmholtz方程式のGreen関数
を用いた。
以上より電流密度ベクトルが与えられた場合のベクトルポテンシャルAを算出する式が求まった。Aが求まれば、ローレンツゲージ条件よりφを算出することができ、そこからE、Hが算出できる。
具体的に球座標系でE、Hを算出するのは、次回にしたい。