ykondo813’s diary(旧パワエレ・EMC日記)

高周波、電磁気学、電気回路について勉強したことをまとめたものです

Maxwell方程式と伝送線路 その2 電圧・電流の定義

 伝送線路をMaxwell方程式から導出している。前回はTEM波近似により電磁界が1次元波動方程式となることと、断面内で電磁界がラプラス方程式に従うことを示した。今回は導体の数を2つとすることにより導体間電圧・導体に流れる電流を定義し、特性インピーダンスなどより分布定数回路に近い形の式を導出する。
前回の復習
 TEM波断面内では、電界EおよびHがポテンシャル場として表すことができることを示した。
  
  
  
  
そして、電界と磁界は、z方向に対して波動として振る舞うことを示した。
  
  
  
また、入射電界Eiと入射磁界Hiおよび反射電界Erと反射磁界Hrが下記の関係を満たすことを示した。
  
ここでZwは波動インピーダンスであり、媒質の誘電率ε、透磁率μ、導電率σ、角周波数ωより
  
と表される。

2次元断面での境界条件
導体を完全導体とする。すると導体表面にて、
  
  
という境界条件となることが知られている。ただしnは導体表面の単位法線ベクトルを表す。この関係式は、電界Eは導体表面に対して垂直となり、磁界Hは導体表面に平行となることを意味している。
       
          図:完全導体上の電磁界
TEM波のようにEやHの回転成分がゼロとなるポテンシャル場の場合を考える。導体表面でのEの接線成分が存在しないため、導体表面上の任意の曲線でEを積分してもゼロとなるため、導体上ではEのポテンシャルφは一定となる。
 TEM波断面では静電界と等価な電界分布を持つため、2次元面内で静電界と同様の議論ができる。断面中に複数の導体が存在するとし、それぞれ任意の電荷が帯電した状態を仮定する。このとき、全ての導体に帯電した電荷の総和はゼロとなること、すなわち、電気力線は全て導体間でやりとりをされ、無限遠まで伸びてはいかないことを主張する。もし無限遠まで電気力線が伸びていくならば、伸びていった先に別の導体が存在することが考えられるが、その導体がないと仮定しているので、無限遠まで伸びてはいかないのである。また無限遠に電気力線が伸びていく位ならば、着目している断面とは別のzにおける導体にEが伸びていく方が自然であるが、その場合はEがz成分を持つためTEM波ではなくなる。

2並行線路のTEM波
 導体の数を二つの場合のTEM波を考える。導体の数だけ、導体の境界条件が増える。導体の数が2つの場合、導体の境界条件は二つである。
       
          図:2導体線路
       
          図:TEM波断面中の電界分布
このとき、導体の数だけの自由度が2つあるように見える(φ1, φ2の2つを決めることができるように見える)。しかしこの場合に意味があるのは、導体間でのφの差分である。電位差φ1-φ2をVとする。電界Eはポテンシャル場なので、Vは下記の式で与えられ、これが電圧として定義することができる。
  
ただし、C1→C2は導体1から導体2への任意の曲線である。導体2を電位の基準としてφ2=0とし、導体1の電位が1Vとなるようなφの分布をφ0とすると、電界ベクトルは
  
となる。2導体系では自由度が導体間電圧の一つしかないため、電界ベクトルEtは入射電圧Viによる電界成分Eiと反射電圧Vrによる反射電界Erの和として表すことができる。
  
入反射電界はz方向について波として表される()ので、電圧と電界の関係式を代入してφ0に関する成分を消去すると
  
となる。これは平面上での導体間電圧はz方向に対して波として振る舞い、全電圧値は入射成分と反射成分の和として与えられることを意味している。

導体間の静電容量
 先程も述べたように、TEM波近似したときの断面内電界分布は静電界と等価なものになるため、電荷を定義することができる。電荷と電圧が定義できれば、導体間の静電容量を求める事ができる。
       
          図:ガウスの定理
 導体を囲む閉曲線を考え、2次元にてGaussの発散定理を適用することにより、その導体に蓄電されている単位長さあたりの電荷が求まる。基準側を導体2として、導体1に対してGaussの定理を適用した式は下記となる。
  
なお、導体2を囲む閉曲線を考えた場合、全電荷量がゼロになる(+側から出た全電気力線が-側に入る)ことから、-qとなる。導体間電位差がVであり、導体には±qの単位長さ当たり電荷が蓄電されているので、単位長さ当たりの静電容量を求めることができる。
  
  

電流について
 TEM波中の電流について考える。Ampereの法則の積分
  
を導体を囲む閉曲線に適用する。Z方向には(TEM波の仮定より)Eは成分を持たないので、伝導電流Iを次式より求めることができる。
  
ここから、EとHの関係より、電流Iを電圧Vで表現する。入射電界Eiと入射磁界Hiの関係式を積分形Ampereの法則に代入し、かつ+側の導体を囲む閉曲線で積分する。
  
ここでベクトル解析の公式を適用して
  
とGaussの発散定理に変換することができる。これより
  
となる。電荷qiは静電容量より電圧Viと関連付けることができるため、
  
となる。もう一方の導体(電位の基準側)に流れる電流は、電荷の符号が逆となるため-Iiとなる。これよりTEM波の面を追加する全入射電流はゼロとなる。反射電界Er、反射磁界Hrについて同様の式変形を行うことにより、反射電流Irと反射電圧Vrの関係式が求まる。
  
       
          図:Ampereの法則の積分

鎖交磁束とインダクタンス
 単位長さ当たりの鎖交磁束は、導体間を結ぶ曲線に対して直交する磁束密度Bを積分したものである。
  
       
          図:鎖交磁束算出の積分
2本の導体の電流によって作られる磁束ΨはインダクタンスLによってΨ=LIと関連付けられる。よって単位長さ当たりのインダクタンスは次式で表される。
  
鎖交磁束の式に入射電磁界の関係式を代入すると、入射電圧と入射電流の関係式が求まる。
  
これより入射磁界によって作られる鎖交磁束Ψiは入射電圧Viで表現することができるので、入射電圧と入射電流の関係式を表現することができる。同様に反射磁界による鎖交磁束ΨrもVrで表現可能で、符号が負になる。

特性インピーダンス
 入射電磁界の関係式を用いることにより、入射電圧と入射電流の関係式が求まった。電圧と電流の関係式を複素数で表したものは一般にインピーダンスとして定義される。TEM波や分布定数線路のように、電圧および電流が波として振舞う場合、入射電圧と入射電流の比を特性インピーダンスという。
 今まで求めた、入射電圧と入射電流の関係式から、特性インピーダンスZ0は以下のように求めることができる。
  
  
Z0をLとCで表現できるよう、式変形する。Z0の2乗を取る。
  
媒質の損失がゼロ、すなわちσがゼロの場合、Z0は以下となり、無損失伝送線路のものと等価となる。
  

 以上、導体の数を2つとしたときに、電圧・電流が定義できることを示した。このとき、電圧・電流が波の形で表現できる。電圧と電流が定義されているので、入射電圧と入射電流の関係式、すなわち特性インピーダンスが定義することができることを示した。そして無損失の場合、無損失伝送線路の特性インピーダンスと全く同一の式で特性インピーダンスとなることを示すことができた。電磁界にTEM波近似を施すことによって、伝送線路理論で得られる結論と同一の結論となるのである。
 次は実際に2つの導体があったときに、どのように特性インピーダンスなどを計算すれば良いかを記述したい。