ykondo813’s diary(旧パワエレ・EMC日記)

高周波、電磁気学、電気回路について勉強したことをまとめたものです

導体の表皮効果

 前回の記事で導体中の平面波についての基本的な式を示した。今回は表皮効果について記述する。

表皮効果
 図のようなz = 0に導体となる系での非導体から導体への平面波の入射を考える。
  
          図 導体中の平面波
平面波は導体との境界である程度反射するが、境界面にて電界・磁界ともにある程度値を持つ。入射波のみを考え進行方向z = 0のときの電界の大きさをEx0とすると、電界は
  
と記述できる。ただしα、βは実数である。減衰係数により
  
のときにネイピア数の逆数exp(-1)の大きさに振幅が減衰することが分かる。この長さをδとして
  
を表皮厚さと呼ぶ。横軸zを表皮厚さδで規格化し、縦軸Eを導体表面の電界強度Ex0で規格化したときの、導体厚さ方向と電界を図に示す。図中の包絡線は減衰係数αによる部分であり、瞬時値はある位相での時間瞬時値を意味する。表皮厚さの数倍まで取ると、ほとんど電界は減衰してなくなっていることがよくわかる。磁界についても式が同じなので、同様の結論になる。
  
          図 表皮効果
この結果は、導体表面から見た場合に電磁界が表皮厚さのスケールまでしか導体に侵入しないことを意味している。導体の表面に電磁界が集中することから、表皮効果(skin effect)と呼ばれている。

VHF帯での良導体の表皮厚さ
 EMCでよく出てくるスケールで表皮厚さを見積もってみる。良導体としてCuを採用すると、σ = 5.8e7 S/m, μ = 4π*1e-7 H/m、周波数は100MHzとするとω = 2π*1e8となるので、
  
と7um程度となる。よって導体の厚さが数十um以上あれば、100MHzにてほとんど導体の表面までしか平面波は侵入してこない。

良導体の波動インピーダンス
 良導体中平面波の電界と磁界の比である波動インピーダンスを考える。平面波はTEM波なので、以前求めた波動インピーダンスの定義式より
  
となる。ここで、σとωεの比が十分に大きいことを仮定した。周波数が100MHzの場合で、導体がCuの場合、波動インピーダンスのオーダーは
  
となる。これは真空中の波動インピーダンス
  
と比較してかなり小さい。

表面電流密度
 導体に入射する平面波で、導体の厚さが表皮厚さより十分に大きく電磁界が十分減衰する場合を考える。導体表面である電界E0がx方向にあるとすると、導体中の電界は以下となる。
  
  
電界Eが求まっているので、体積電流密度が直ちに求まる。
  
表皮厚さδが十分に小さければ平面波は直ちに減衰して導体中からなくなるので、電磁界および電流密度はほぼ導体の表面にのみ流れていると見なせる。そこで表面電流密度の概念を導入する。電流密度を厚さ方向に積分したものを表面電流密度Jsと定義する。
  
これは、導体表面の単位長さ当たりを通過する電流量である。単位はA/mで興味深いことに磁界と同じ単位となる。電界分布から表面電流密度を計算する。
  
この結果の意味するところを考える。良導体中での波動インピーダンスは、変位電流項を無視することにより
  
となり、さらにTEM波では入射波に対して
  
の関係式が成り立つので、導体表面では
  
となる。これより、表面電流密度と導体表面での磁界の大きさは同じ値となり、向きは表面電流密度ベクトルの垂直な方向であることが分かる。なお反射波は考慮していないが、導体内部で表皮効果により減衰するので、考慮しなくても良い。この結果は、完全導体境界条件のときに議論したことだが、Stokesの定理でAmpereの法則を積分形で表すことにより直感的に理解することができる。
  
         図 Stokesの定理による積分
Stokesの定理で長方形を定義するが、表皮厚さが厚さ方向Δtに対して十分に小さければ、媒質1側のみ磁界を考慮すればよい。長方形を通過する全電流が長方形周りの磁界の積分値に一致し、媒質1側の磁界のみ磁界の積分で考慮すれば良いが、電流は表面電流密度によって定義されているため、表面磁界と表面電流密度の大きさは一致する。