ykondo813’s diary(旧パワエレ・EMC日記)

高周波、電磁気学、電気回路について勉強したことをまとめたものです

TEM波の伝搬速度(光速)と媒質の損失について

 電磁波が伝搬する媒質が無損失(つまり実部のみ持つ)で透磁率μおよび誘電率εが一定の場合、電磁波の速度(光速)は
  
となることは、様々な電磁気学の教科書にも記載されている。また、この場合、周波数に関わらず光速は一定である。しかし伝搬する媒質が真空ではない場合は一般に電磁波の伝搬時に損失が生じる(εに誘電正接、つまり虚部を持つ)。この場合に光速がどうなるかをTEM波を用いて検討する。
 ある周波数空間上でのz方向に進行するTEM波の電界に関する方程式は、媒質の誘電率の静電正接誘電率の虚部)を考慮した場合以下の式となる。
  
ただし、透磁率μは実数であり、誘電率は以下の複素数で表されるものとした。
  
また、添字tは進行方向zに対して垂直なxy平面上の成分のみ持つベクトル量である。この方程式の一般解は
  
を満たす伝搬係数λを用いて
  
と表示できる。伝搬係数λを
  
と実部の減衰係数と虚部の位相定数(波数)に分解する。第1項の入射波だけに注目する。
  
この複素数を時間空間に直す。複素数近似ではすべての物理量にexp(jωt)がかかっているので、この成分を考慮して実部を取ることにより時間領域に直すことができる。x方向成分に着目して時間領域の式を記述する。
  
ここでEx0はx方向成分Exの振幅を表す。これは、減衰係数αの指数関数状に減衰しつつ+z方向に進む正弦波を表す。この波の進行速度は
  
である。位相定数βが決まれば、その周波数での光速が求まる。
 損失がある場合にβがどのようになるかを求めてみる。λに関する式を2つ立てて、条件をつけてとけば良い。
  
導体中の平面波について述べたときと同様の求め方をすると
  
  
となる。ただしここで誘電正接の関係式を用いた。
  
ここから電磁波の伝搬速度を算出すると以下となる。
  
損失がない場合は誘電正接tanδがゼロとなり、当初述べた通り
  
となることが分かる。損失がある場合は、位相定数βが損失のない場合よりも大きくなるため、光速は小さくなる。
 一般的な伝送線路で用いられる媒質にて、誘電体の損失が光速にどの程度影響を及ぼすのか見積もる。プリント基板などでよく使用されるFR-4(ガラスエポキシ基板)の場合、tanδはおよそ0.01程度である。これより
  
となり、1.0e-5倍程度光速が小さくなるに過ぎない。tanδが変化したときに、無損失時のβに対してβがどの程度変化するのかをグラフ化したものを示す。大きめの誘電損失のある材料でtanδを0.1としたときでも、βは0.1%程度しか変化しないことが分かる。よって通常の伝送線路材料では、tanδによってほとんど光速は変化しないとみなせる。
  
一般的には、複素誘電率は周波数に依存して変化するため、媒質を伝搬する光速は周波数に依存して小さくなることに注意が必要である。