ykondo813’s diary(旧パワエレ・EMC日記)

高周波、電磁気学、電気回路について勉強したことをまとめたものです

準TEM波(QTEM)近似

 TEM波は均一な媒質上でしか成立しない(同軸線やストリップラインなど)。しかしマイクロストリップライン(Micro Strip Line : 以降MSL)やコプレーナ線路などは,誘電体部分と空気の部分が混在するため,TEM波近似は成立しない。よって電磁界分布は3次元のMaxwell方程式を厳密に解く必要がある。
  
          図1 MSL
しかし、Maxwell方程式を厳密に特には、かなりの労力を要する。そこでMSLなどの線路は直流を流すことができることに着目する。直流場では誘電体の影響を受けた電界Eの分布と、誘電体の影響を受けない磁界分布が得られる。この分布は線路の奥行き方向に一様なTEM波に近い分布となる。かける電圧を交流にした場合でもこのE、H分布が保たれるとすれば、TEM波と同じ要領で、伝送線路の特性を計算することができる。この近似を準TEM近似(Quasi TEM近似、QTEM近似)という。また、この近似が適用可能なMSLのような線路はQTEM線路と呼ばれる場合がある。
  
          図2 MSLの直流時電界分布
  
          図3 MSLの直流時磁界分布

具体的な特性算出方法
参考文献:Zorica Pantic, Quasi-TEM Analysis of Microwave Transimission Lines by Finite Element Method, IEEE Trans. Microwave Theory and techniques. MTT-34, No.11, Nov. 1986
 QTEM近似での具体的な特性算出方法を記す。まず誘電体の影響を受けないと仮定した磁界分布に関係する単位長さあたりのLを求める。全媒質を真空(≒空気)として、特性を求める。この場合、完全なTEM波近似が成り立つ。このときの容量、インダクタンス、特性インピーダンス、光速をC0、L0、Z0、v0として、光速v0は
  
となる。単位長さあたりの静電容量C0は、ラプラス方程式
  
を以前導出した手順を用いて解いて、得られたφVの分布から導体表面で表面積分を取ることにより求めることが可能である。C0が求まれば、L0は
  
で求めることが可能である。また、特性インピーダンスZ0は下記となる。
  
ただしZwは波動インピーダンスであり、以下の式で表される。
  
 次に誘電体が一部の領域に存在した時の単位長さあたりのCを求める。そのためには媒質の物性分布を考慮したラプラス方程式を解けば良い。すなわち信号線側に1V、GND側の導体を0Vとして
  
を解いてポテンシャル分布φVを求めて、導体に蓄積される電荷量を導体表面で電束密度Dを積分して求めてれば、静電容量の関係式
  
よりCが求まる。
 電磁波の伝搬速度(光速)を求める。無損失の分布定数回路理論によると、LとCから求めることができる。
  
誘電体がない場合の光速と比較して
  
となる。これから実効比誘電率が定義できる。QTEM線路の場合、媒質の一部が誘電体であるが、全領域が一様な誘電体の場合のときと同じ光速となる誘電率を実効比誘電率という。実効比誘電率εeffは以下のように表せる。
  
また、特性インピーダンスZcは
  
となる。QTEM近似では、直流の分布量から分布定数を計算し、分布定数回路理論で特性を計算する近似であると言える。
 なお、文献ではこの後誘電正接による損失や導体の損失を"perturbational"な方法(損失を考慮しないでEとHの分布を求め、後処理として分布良から計算するという意味だと思う)で求めることが記載されているが、これは表面インピーダンスの定義などが必要なので、また別途記載したい。