LC共振と特性インピーダンス
「特性インピーダンス」という単語は色々な意味で使われる。伝送線路の世界では,波として伝わる電圧,電流の比として定義され,電磁波の世界では電界Eと磁界Hの比として定義される。一方,ソフトスイッチングの分野では,回路中のLC共振を活用しており,ここでも特性インピーダンスという単語が出てくる。また,スイッチング素子に並列で接続するCRスナバ回路の定数決定の際にも,特性インピーダンスという単語が出てくる。高周波の分野ではなく、LC共振などで使われる集中定数回路理論における特性インピーダンスの意味について考えたい。
LC直列共振
基本的なところではあるが,LC直列共振回路を考える。ある周波数 (角周波数)のときのインダクタンスおよびキャパシタンスのインピーダンスは
となる。ここで
のときにLC共振が起こり,インピーダンスの虚部が打ち消しあい,直列のインピーダンスはゼロとなる。
ここまでは比較的一般的な事だと思われる。
LC共振時の電圧および電流
以下のように,LC共振系の共振周波数である大きさの電流が流れていることを考える。
図 LC共振系と各素子の電圧
共振時にはLC直列インピーダンスがゼロであるが,LもしくはCの素子単独ではインピーダンスを持っているので,素子の端子間には電圧が発生する。共振状態で電流が流れた場合L,Cにかかる電圧はそれぞれ
という電圧が発生している。これの意味するところは,ある共振系がありそこに共振周波数で電流が流れているときに,倍の電圧がインダクタンス成分・キャパシタンス成分に発生するということである。言い換えると,共振状態のLC共振系での電流とLC素子電圧の絶対値の比がとなることを意味している。電流と電圧の比なので次元はΩとなり,特性インピーダンスと呼ばれる。
この式は伝送線路の特性インピーダンスのときと表記が同じことが非常に興味深いが,意味するところは全く違うと私は思っている。伝送線路理論での特性インピーダンスは,同じ,という表記でも単位長さ当たりの,であり,意味も一方向に進む波としての電圧と電流の比である。一方,LC共振での特性インピーダンスは,共振しているときの電流と,素子にかかる電圧の比である。